賃貸で孤独死したとき請求される費用の種類

主な請求項目
| 費用 | 内容 | 目安 |
|---|---|---|
| 未払い家賃 | 亡くなった月以降、明け渡しまでの家賃 | 家賃×月数 |
| 特殊清掃費 | 汚染物の撤去・消毒・消臭 | 数万〜数十万円 |
| 原状回復費 | 床・壁紙・設備の張り替えや交換 | 数十万〜100万円超 |
| 残置物撤去費(遺品整理) | 家財・遺品の搬出・処分 | 1Kで数万〜、家族向けで数十万円 |
| 逸失利益(損害賠償) | 事故物件となり家賃を下げざるを得ない分など | 事案により大きく異なる |
このうち、未払い家賃・特殊清掃・通常の原状回復・残置物撤去は、賃貸借契約にもとづき借主側(=相続人)が負担するのが原則です。一方で、「事故物件になって家賃が下がった分」の逸失利益(損害賠償)は、死因によって考え方が大きく変わります。
敷金(保証金)は差し引いて精算される
入居時に預けた敷金や保証金は、未払い家賃や原状回復費と差し引き(相殺)して精算されるのが一般的です。請求書を受け取ったら、敷金がきちんと差し引かれているかを確認しましょう。関西の賃貸では「敷引き」「保証金」という形で、返ってこない部分が契約で決められていることもあるため、契約書の確認が欠かせません。
請求の金額は「契約書」と「部屋の状態」で決まる
同じ孤独死でも、発見までの日数、亡くなった場所(居室・浴室・トイレ)、建物の構造によって、必要な工事は大きく変わります。そのため、上の表の金額はあくまで目安です。物件や時期によって変わるため、実際の請求額は見積書の内訳で一つずつ確かめることが大切です。特殊清掃の作業内容は特殊清掃とは、原状回復の範囲は特殊清掃と原状回復の範囲で解説しています。
費用を払うのは誰?相続人と連帯保証人の責任

相続人:借主の地位と義務を引き継ぐ
借主が亡くなっても賃貸借契約は自動的には終了せず、借主としての地位は相続人に引き継がれます。そのため、未払い家賃や原状回復義務、残置物の撤去といった義務も相続人が負うことになります。相続人が複数いる場合は、法定相続分に応じて負担するのが原則です(家賃のように分けられない債務は連帯して負うと解されることもあります)。
連帯保証人:相続放棄しても責任は残る
連帯保証人は、借主(相続人)とは別に、保証契約にもとづいて自分自身の責任を負います。そのため、相続人が相続放棄をしても、連帯保証人の支払い義務は消えません。親族が連帯保証人になっているケースでは、「相続放棄したのに保証人として請求された」ということが起こります。
2020年4月以降の契約は「極度額」の範囲まで
2020年4月1日施行の改正民法により、個人が賃貸借契約の連帯保証人になる場合は、保証の上限額(極度額)を契約書に定めなければ保証契約が無効になりました。2020年4月以降に結ばれた(更新を含む場合あり)契約であれば、保証人の負担は極度額が上限です。請求を受けたら、まず契約書の日付と極度額の記載を確認しましょう。2020年3月以前の古い契約では、上限の定めがない保証も有効なままのことがあり、扱いが変わります。
家賃保証会社がついている場合
最近の賃貸契約では、連帯保証人の代わりに家賃保証会社を利用していることが多くあります。この場合、まず保証会社が大家に未払い家賃などを立て替え、その後、相続人に対して支払いを求める流れになるのが一般的です。保証会社によって、原状回復費や残置物撤去費まで保証の対象に含むかどうかが違うため、保証委託契約の内容を確認しましょう。
| 立場 | 責任の根拠 | 相続放棄の影響 |
|---|---|---|
| 相続人 | 借主の地位を相続 | 放棄すれば相続人としての責任はなくなる |
| 個人の連帯保証人 | 保証契約 | 放棄しても保証人の責任は残る(極度額の範囲など) |
| 家賃保証会社 | 保証委託契約 | 立て替えた分を相続人に求めることがある |
孤独死の損害賠償(家賃下落分)は払う必要がある?

自殺の場合:損害賠償が認められやすい
借主が室内で自殺した場合、裁判例では、借主には物件を大切に使う義務(善管注意義務)があり、自殺はその義務に違反するとして、相続人や連帯保証人に損害賠償を認めた例が多くあります。賠償額は、事故物件となったことで下げざるを得ない家賃の差額を、一定期間(1〜3年程度)分認めるものが多い傾向です。
病死・自然死の場合:家賃下落分の賠償は原則認められにくい
一方、病気や老衰で亡くなった孤独死は、借主の意思や過失によるものではありません。そのため、「事故物件になって家賃が下がった」という損害を相続人に負わせることは、裁判例でも否定される傾向にあります。発見が遅れたことについても、一人暮らしの借主に責任を問うのは難しいとされます。
ただし特殊清掃・原状回復の実費は負担するのが原則
家賃下落分の賠償が否定されても、汚れた床や壁の張り替え、特殊清掃などの実際にかかった費用は、原状回復として相続人側が負担を求められるのが一般的です。ただし、経年劣化分まで負担する必要はなく、国交省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の考え方に沿って、築年数や耐用年数を考慮した負担割合を主張できる場合があります。
「経年劣化」の分まで払う必要はない
原状回復とは、新品の状態に戻すことではありません。何年も住めば壁紙や床は自然に古くなり、この通常の使用による傷みや経年劣化は、もともと家賃に含まれているという考え方です。たとえば長く住んでいた部屋の壁紙を全面張り替えた場合、その全額を相続人が払うのではなく、古くなっていた分は大家側の負担として差し引くのが基本です。見積書に「全面張り替え」「設備一式交換」とある場合は、汚染された範囲と工事の範囲が合っているかを確認しましょう。
相続放棄した場合、孤独死の費用は払わなくていい?

相続放棄すれば相続人としての支払い義務はなくなる
家庭裁判所で相続放棄が認められると、その人ははじめから相続人ではなかったことになります。放棄は相続人ごとに行う手続きなので、兄弟姉妹のうち一人だけが放棄することもできます。そのため、借主の地位も引き継がず、未払い家賃・原状回復費・損害賠償を相続人として支払う義務はありません。相続放棄は、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内に申述する必要があります。
注意:部屋の片付けや解約をすると放棄できなくなるおそれ
大家や管理会社から「早く部屋を片付けてほしい」と言われ、遺品を処分したり、家財を売ったり、賃貸借契約を解約したりすると、相続を承認した(単純承認)とみなされるおそれがあります。相続放棄を検討しているなら、片付けや解約に応じる前に専門家へ相談しましょう。
相続人が全員放棄したら、大家はどうする?
相続人全員が相続放棄すると、残置物の処分や契約解除の相手がいなくなります。この場合、大家は家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てて手続きを進めるのが原則です。国交省は、こうした事態に備えた「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を公表しており、単身高齢者の入居時に、死後の契約解除や残置物処理を担う受任者を決めておく方法が広がっています。
相続放棄の手続きの流れ
- 故人の最後の住所地を担当する家庭裁判所を調べる
- 申述書を用意し、戸籍謄本などの必要書類を集める
- 家庭裁判所に申述書を提出する(郵送もできます)
- 裁判所から届く照会書(質問の書面)に答えて返送する
- 受理されると通知が届く。必要なら「受理証明書」を取り寄せ、大家や管理会社に示す
必要な書類や費用は、裁判所のホームページ「相続の放棄の申述」で確認できます。相続放棄が認められるかどうか、どこまでの片付けなら問題ないかは事情によって違うため、迷ったら弁護士・司法書士に確認してから動きましょう。親の孤独死と相続放棄の判断については親が孤独死したら相続放棄すべき?で詳しく解説しています。
隣室への補償・お詫びと、大家・オーナー側の対策

隣の部屋・下の階への補償は?
体液が床を伝って下の階の天井に染みた、においで隣人が一時退去した——といったケースでは、近隣住戸への補償が問題になることがあります。法的な賠償責任は事案によりますが、実務上は大家・管理会社が窓口となり、保険で対応することが多く、遺族が直接お詫びに伺う場合は、菓子折り程度で丁寧に事情を伝えるのが一般的です。
大家・オーナーが備えておきたいこと
- 孤独死保険(家主型):原状回復費や空室期間の家賃損失を補償。月数百円/戸程度から
- 入居者向けの少額短期保険:入居者自身が加入し、死亡時の原状回復費を補償
- 見守りサービス:センサーや定期連絡で早期発見し、特殊清掃を防ぐ
- モデル契約条項の活用:死後の契約解除・残置物処理の受任者を決めておく
事故物件になった部屋・建物を手放すなら
孤独死をきっかけに空室が埋まらない、建物ごと手放したいというオーナー様もいらっしゃいます。当社では、入居者がいる状態・事故があった状態のままの一棟アパートや区分マンションの買取も行っています。
請求を受けたときの進め方(遺族・保証人向け)

支払う前に確認する5つのこと
- 自分の立場:相続人なのか、連帯保証人なのか、その両方なのか
- 契約書の内容:契約日、保証の極度額、敷金・保証金、特約の有無
- 請求の内訳:特殊清掃・原状回復・残置物撤去・家賃・損害賠償が分けて書かれているか
- 工事の範囲:汚染された場所と工事の範囲が合っているか、経年劣化が考慮されているか
- 相続の方針:相続放棄を考えているなら、相続人として支払う前に決める
話し合いは書面で、記録を残す
電話だけでやりとりすると、「言った・言わない」のもめごとになりがちです。見積書や請求書は書面(メール可)でもらい、こちらの回答も文字で残すようにしましょう。金額に納得できない場合は、根拠となる写真や工事内容の説明を求めることができます。
相談できる窓口
- 弁護士:損害賠償の請求額が妥当か、支払義務があるかの判断
- 司法書士:相続放棄の書類作成、相続登記
- 自治体の法律相談・消費生活センター:最初の相談先として
- 法テラス:収入などの条件により、法律相談の援助を受けられる場合があります
故人が持ち家と賃貸の両方を持っていた、実家の売却も考えているといった場合は、当社にもご相談ください。相談フォームから、状況を簡単にお知らせいただくだけでかまいません。









