事故物件の損害賠償、まず押さえたい全体像

自殺は「借主の義務違反」と考えられることが多い
賃貸借契約では、借主は部屋を大切に使い、契約が終わったら元の状態に戻して返す義務を負っています。室内での自殺は、その後しばらく借り手が見つかりにくくなったり家賃を下げざるを得なくなったりするため、物件の価値を下げる行為として、借主の義務違反にあたると判断した裁判例が多くあります。そのため、大家は借主の立場を引き継いだ相続人や、連帯保証人に損害賠償を求めることができる、というのが一般的な考え方です。
ただし、裁判例の判断は事案ごとの事情をふまえたもので、どんな場合でも同じ結論になるわけではありません。室外(ベランダや共用部分、建物の外)で起きた場合や、借主以外の同居人・来訪者が亡くなった場合などは、考え方が変わることがあります。ご自身の事案に当てはめるときは、弁護士に確認してください。
病死や老衰の孤独死とは考え方が違う
一方、病死や老衰など自然死による孤独死は、借主に落ち度があるとはいえないため、原則として逸失利益の損害賠償は求めにくいとされています。ただし、発見が遅れて部屋が汚損した場合の原状回復費用の負担は問題になります。孤独死の場合の考え方は賃貸で孤独死したら損害賠償は誰が払う?で詳しく解説しています。
請求の全体像
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 請求の相手 | 借主の相続人、連帯保証人 |
| 主な範囲 | 原状回復費用、空室期間の家賃、告知期間中の家賃の値下げ分 |
| 認められにくいとされるもの | 根拠の薄い費用、建物全体の価値下落など(事案による) |
| 金額 | 決まった相場はない。物件・立地・家賃・事案で変わる |
誰に損害賠償を請求できるのか

借主の相続人
借主が亡くなると、賃貸借契約上の立場や、借主が負っていた損害賠償の責任は、原則として相続人に引き継がれます。配偶者や子、親、兄弟姉妹などが相続人になります。ただし、相続人が家庭裁判所で相続放棄をした場合は、その人は最初から相続人でなかったことになり、請求できなくなります。相続放棄は、相続人になったことを知った時から3か月以内に申述するのが原則です(期間の伸長を申し立てることもできます)。
連帯保証人
連帯保証人は、相続放棄の影響を受けず、保証した範囲で責任を負います。ただし、2020年4月1日以降に結ばれた賃貸借契約の個人の連帯保証は、極度額(保証の上限額)の定めがないと無効です。極度額があれば、その金額までが請求の上限になります。契約日と保証契約書の記載をまず確認してください。家賃保証会社を利用している場合は、保証の範囲が保証会社の約款で決まるため、内容を確認しましょう。
相続人が誰かわからないとき
相続人の範囲は、戸籍をたどって確認します。大家が自分で調べるのは難しい場合が多く、管理会社や弁護士を通じて進めるのが一般的です。相続人が複数いる場合、損害賠償の債務は原則として法定相続分に応じて分かれて引き継がれるとされるため、だれにいくら請求するかの整理も必要になります。相続人全員が相続放棄をした場合などは、相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申し立てる方法もありますが、費用と時間がかかります。どの方法がよいかは弁護士に相談してください。
損害賠償として請求できる範囲

原状回復費用
室内の汚損箇所の清掃や補修、特殊清掃、においの除去などの費用です。ただし、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の考え方では、年数の経過による劣化や通常の使用による損耗は、もともと大家が負担するものとされています。事案によって必要になった部分の費用と、もともとの古さによる部分とを分けて考える必要があります。費用の目安は特殊清掃の費用相場を参考にしてください(物件や時期で変わります)。
逸失利益(得られたはずの家賃)
- 空室期間の家賃:清掃・補修の期間や、事案の影響ですぐに次の入居者が決まらない期間の家賃
- 家賃の値下げ分:告知が必要な期間中、家賃を下げて貸さざるを得ない場合の差額
賃貸の告知は、国土交通省のガイドラインで事案の発生からおおむね3年が原則の目安とされています。裁判例では、どのくらいの期間の家賃減少を損害とみるかについて、事案ごとに期間を区切って判断されています。
認められるかが分かれやすいもの
お祓いや供養の費用、同じ建物のほかの部屋の家賃減少、建物全体の売却価格の下落などは、認められるかどうかが事案によって分かれます。因果関係(その出来事が原因で生じた損害か)が説明しにくいものは、認められにくいと考えておくのが現実的です。請求に含めるかどうかは、話し合いの雰囲気や、相手が支払える範囲も考えて決めることになります。請求項目を増やすほど交渉が長引き、結果として回収が遅れることもある点も意識しておきましょう。
損害額の計算例:家賃差額と空室期間

計算例:家賃8万円のワンルームの場合
以下は、考え方をわかりやすくするための計算例です。実際に認められる金額を示すものではありません。
| 項目 | 前提 | 金額 |
|---|---|---|
| 空室期間の家賃 | 8万円 × 6か月 | 48万円 |
| 家賃の値下げ分 | (8万円 − 6万円)× 24か月 | 48万円 |
| 原状回復費用 | 見積書による(事案で必要になった部分) | 実費 |
| 合計 | 96万円 + 原状回復費用 |
金額を左右する要素
- 立地や間取り:単身者向けで駅に近い物件は、比較的早く次の入居者が決まることがある
- 周辺の家賃相場と、実際に下げた家賃の幅が妥当か
- 次の入居者が決まった時期と、募集の努力をしていたか
- 原状回復の範囲が、事案によって必要になった部分に限られているか
根拠をそろえておくことが大切
請求するときは、清掃・補修の見積書や請求書、募集時の家賃設定の資料、周辺の家賃相場の資料、管理会社とのやりとりの記録などを残しておきましょう。根拠のはっきりしない金額を請求すると、話し合いがこじれる原因になります。
また、損害を小さくする努力(早めに清掃・補修を手配する、相場に見合った条件で募集を始めるなど)をしていたかどうかも、話し合いや裁判で見られるポイントです。必要以上に長く空室にしたり、相場より極端に家賃を下げたりした分まで請求するのは難しいと考えておきましょう。
請求の進め方と、ご遺族との話し合いの注意点

一般的な流れ
- 警察の対応が終わったあと、管理会社を通じてご遺族(相続人)・連帯保証人と連絡をとる
- 室内の状況を確認し、特殊清掃・原状回復の見積もりを取る
- 残置物(家財)の扱いと、賃貸借契約の終了について話し合う
- 請求の項目と根拠を書面にまとめて提示し、支払い方法を協議する
- まとまらない場合は、弁護士を通じた交渉や、調停・訴訟を検討する
急がない、責めない、書面に残す
ご遺族にとって、亡くなった直後に金銭の話をされるのはつらいことです。ご遺族の中には、亡くなった方の事情を知らされておらず、突然の連絡に戸惑う方もいます。最初の連絡では、お悔やみと今後の手続きの説明にとどめ、請求の話は落ち着いてから書面で行うのが望ましい進め方です。感情的な言葉や、根拠のない高額な請求は避けましょう。話し合いの結果は、合意書などの書面に残してください。分割での支払いを認める場合は、回数と期日も明記しておきます。
相続放棄の可能性も考えておく
相続人が相続放棄を検討している場合、残置物の処分や部屋の片付けを相続人に頼むと、相続を認めた(単純承認)とみなされるおそれがあり、相続人も応じにくくなります。残置物の扱いは、国土交通省の「残置物の処理等に関するモデル契約条項」の考え方も参考になります。具体的な進め方は弁護士に確認してください。
大家が誤解しやすいポイント

誤解1:建物全体の値下がり分まで請求できる
事案のあった部屋以外の家賃減少や、建物を売るときの価格下落まで請求したいと考える大家さんもいます。しかし、こうした損害は事案との因果関係の証明が難しく、認められるかは事案によって判断が分かれます。まずは事案のあった部屋の原状回復と家賃の損失に絞って考えるのが現実的です。
誤解2:連帯保証人や敷金で全額まかなえる
2020年4月1日以降の個人の連帯保証契約では、極度額の範囲内でしか請求できず、極度額の定めがなければ保証自体が無効です。それより前の契約でも、保証の範囲は契約書の内容で決まります。
また、預かっている敷金は、未払いの家賃や原状回復費用に充てることができますが、事案によって必要になった費用が敷金を上回ることは少なくありません。充当した内訳は、相続人や連帯保証人に書面で示しましょう。残った分を返す必要がある場合もあります。
誤解3:告知を省けば損害は出ない
損害を小さくしようとして事案を告げずに貸すと、後で借主から契約解除や損害賠償を求められるおそれがあります。賃貸の告知はおおむね3年が原則の目安です。告げたうえでの募集方法は事故物件の賃貸募集と家賃設定、告知を消そうとする行為の問題点は事故物件ロンダリングとはで解説しています。
損害の回収と並行して考えたい、物件の今後

貸し続けるか、売るか
損害賠償の話し合いには時間がかかることがあります。その間も、固定資産税やローンの返済、管理費などの支出は続きます。告知期間中の家賃の値下げや空室のリスクを考えると、貸し続ける場合と売却する場合の収支を比べておくことが大切です。アパート一棟の場合は、ほかの入居者への影響も含めて検討が必要です(事故物件のアパートを売却するには)。
事故物件のまま売る選択肢
株式会社GEEZは、大阪府全域で事故物件・孤独死物件を当社が直接買主となって買い取る不動産会社です。区分マンションの一室、一戸建て、相続物件などのご相談をお受けしています。
- 査定・相談は無料、秘密厳守。チラシやポータル掲載をしないため、ほかの入居者や近所に知られにくい
- 特殊清掃の前でも、家財が残ったままでも相談可能
- 契約不適合責任は免責で買取
損害賠償の請求そのものは弁護士への相談が必要ですが、「物件をどうするか」は並行して考えられます。無料相談フォーム、またはお電話(06-7777-4333/10:00〜19:00、水・日定休)でお気軽にお問い合わせください。









